石毛大蔵の判定負けを讃える[井原芳徳]
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 5月27日のケージフォースの記事は、「パンクラス王者・石毛、英国金網王者に完敗」という見出しで掲載した。だが、光となった勝者・ダン・ハーディと、陰になった敗者・石毛大蔵のコントラストを強め過ぎ、石毛について大事なことを書き逃してしまっていた。

 石毛は敗れた。しかしKO負けじゃなく、判定負けだった。
 1Rに2回、ハーディのパンチでダウンした後、もうダメだろうと思ったが、石毛はケージの中をステップじゃなく、逃げるように走り回った末、インターバルまで耐えきった。
 2Rのチョークスリーパーでの逆転のチャンスを逃すと、3Rはサンドバッグ状態でハーディのパンチを浴び続けたが、ダウンせずに耐え抜いた。
 目を腫らし、鼻血で呼吸がしにくくなり、体力切れの酸欠状態で、脳にも衝撃が大量に加わっただろうから、かなり危険な状態だっただろう。試合後、石毛は救急車で病院に運ばれた(その後無事退院したと聞く)。

 はっきり言って、1Rにもう1度ダウンして、パウンドを数発浴びてKO負けしていたほうが、同じ負けでもダメージは軽く済んだと思う。
 しかし石毛は体が動かなくても、最後の最後までKO負けを拒否し、勝ちへの執念を捨てなかった。
 パンクラスのベルトを肩に掛けて入場してきたことからもわかるように、チャンピオンとしての責任感と、この春で安定した教員の仕事を辞め、明日の見えない格闘技に賭けた覚悟があったからだろう。
 それは彼だけにとっての戦いじゃない。パンクラスで石毛の試合を見て来たファン、パンクラスのフロント、石毛とともにベルトを目指ししのぎを削り合った他の選手、そして教員を辞めたことで迷惑をかけた家族や他の教員や教え子の思いも背負った戦いだった。

 3R目の石毛の執念からは、そういう気持ちも感じ取ってはいたが、会場で取ったメモにも、試合レポートにも、僕は書かなかった。
 KO/一本決着を讃える傾向がこの業界には強いが、KO/一本を許さなかった敗者の、心技体の強さを軽視してはいけない。KO/一本決着だから良し、判定決着だから悪し、という二分法はナンセンスだ。問題は質だ。質の低いKO勝ちもあれば、質の高い判定負けもある。

 僕もこの仕事を7年やって、いろんな勝ち負けのケースを見て来た。
 そういう他の人が見逃したり軽視しがちな大事なことも、もっとたくさん書いていかないといけない時期に差し掛かってきたのではと、いろんな事情があって最近感じるようになった。(前にもそういうことを書いた気がするが、特に今はそれを痛感している)
 以前なら自分の経験や立場で書くのはおこがましい気がしていたし、今も迷いはあるが、もう腹をくくってやってしまったほうがいいのかもしれない。
 いきなり大きな一歩を踏み出すのは大変だし危ないから、1ミリだけでいいから前に出る。あるいはいきなり大きな一発を狙うのじゃなく、まずはジャブを出す。今回のこの文章はジャブになっただろうか。
 海賊版で今回石毛に関して書いた文章では、まだまだ読者に訴える力が足りない。自己満足的なオヤジの説教で終わってはいけない。ちゃんとしたエンターテイメントにならないと、現状を変える力にはならない。お笑いとか奇をてらった事をやるという意味では無く。


2007-06-01 11:09 この記事だけ表示   |  コメント 4

コメント

、自分でもこれまで思いつきもしなかったようなフレーズでその選手を表現することで、ディレクターさんやデザイナーさんが意外なアイデアやデザインを返してきたりと、ジャムセッションのような化学反応が起こる楽しさもあります。シンガーソングライターがアイドルに詩や
(2012-04-05 16:51)
。「この選手の何が凄い?何が個性?」ということを、簡潔でいてインパクトの残る形で紹介しないといけないので、脳味噌の中でもい
(2012-04-05 16:55)
ほとんど無いことも想定しないといけない上、文字数も限られています。「この選手の何が凄い?何が個性?」ということを、簡潔
(2012-04-05 17:00)
する文章は、これまでばうれびでも専門誌でも山ほど書きましたSだと、格闘技を全然知らないか、普段そんなに見ない人が対象です。選手やイベントの予備知識はゼロか
(2012-04-05 17:06)

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