なぜ石黒は暴走してしまったんだろう?[井原芳徳]

 27日の全日本キック後楽園大会。石黒竜也は踏み付け、頭突き等の反則を繰り返し、レッドカード3枚をもらうという暴挙を繰り広げた。途中相手のセコンドが石黒を蹴るわ、関係無い人がリングに乱入するわ、石黒は途中で帰ろうとするわの大騒ぎ。不謹慎な表現かもしれないが、レバノン情勢かと思うような泥沼化だった。

 細かい反則はやりたい放題。果たしてこれはキックの試合なんだろうか? 驚きや怒りを通り越してあきれてしまい、「これはきっと夢の中の出来事だ。それかキックというフォーマットを借りた壮大な実験を見せられているだけなのかもしれない」というシュールな考えも途中浮かんだ。石黒が途中帰ろうとしたのも、動物実験かサーカスのような状況に嫌気がさしたことも一因ではないか。審判団も1Rのタックル→踏み付けの反則の時点で普通に失格すれば、大騒ぎにならずに済んだはずなのに。

 まずもって、石黒のトランクスの尻に、警視庁のピーポ君が「大麻合法」と喋っている絵が書かれているのに、審判団がそれをマジックで消すなり処理をしなかったことが不思議で仕方なかった。しかも入場曲はロックバージョンの君が代だ。政治法律的な是非論は置いておくとして、GAORAとフジテレビの「SRS」はこの試合を放送できるのだろうか心配になる。ブラックジョークとしては可笑しいが、これは大川興業や鳥肌実の公演じゃない。スポーツの試合場でやることとしてはやり過ぎだろう。その野放しにされたやり過ぎ感も、不穏な空気を煽っていた気がしてならない。過去にも石黒はクスリネタをパフォーマンスに使っていたが、この日は一線を超えていた。

 なぜ石黒はあそこまで暴走してしまったんだろう? 帰り道、僕以上にキックの試合をマメに見ている他誌の記者の話も参考にし、その後考え達した結論はこうだった。

 僕は2年前のNKBタイトルマッチ以降の石黒の7試合を一通り生で見たが、石黒がここまでの反則を繰り返したことは無い。昨年5月の笛吹戦を除き、他の試合で石黒が反則で減点されたことは無かったと記憶している。むしろ昨年1月の試合ではタイ人に金的蹴りをされる側だったが、石黒はセコンドの言葉に従い、最後までちゃんと試合をした。

 だが普段や試合前後の本人の奇行のせいもあってか、笛吹戦の反則オンパレードのイメージが増幅し、「反則を得意とする」「反則は当たり前」等とのレッテルをつけられてしまった感がある。試合前から石黒と金沢がメディアを通じ反則を公言し、契約体重までもコロコロ変わっていた時点で、嫌な予感はしていた。

 反則王のイメージ付けに、石黒は乗った&乗せられたということは無いだろうか? 本誌とゴング格闘技で笛吹戦の記事を書き、昨年8月のR.I.S.E.の試合前にも「反則王」と石黒を表現した僕にも責任の一端があるのだろうかと、試合以降悩み続けている。

 今回の問題の大きさは承知している。だが、あえて本誌の記事では他の試合を中心に扱い、石黒戦を下の方に下げ、論評は海賊版に回した。理由は2つある。1つはこの日いい試合をした望月ら他の選手が、この騒動のせいで扱いが小さくなるのは気の毒だと感じたこと。もう1つは石黒に関する誤解を防ぐため。騒動の主犯が石黒なのは確かだろうが、金沢も言うように石黒の単独犯ではない。下手にこの問題を煽れば、騒動の突飛でわかりやすい部分だけが流布し、今度は石黒の単独犯というレッテルが貼られかねない。

 今回の石黒のペナルティは重いものとすべきなのは当然だ。しかし出場停止処分の解けた次の試合は次の試合。彼に対する先入観と試合自体を切り離し、普通に試合できる環境を整えること。審判団は石黒を特別視せず、普通の基準で裁いて欲しい。プロモーター側は石黒に対する先入観や恐怖感の少ない外国人選手との試合をしばらく組み、普通に試合ができることをお客さんや他の選手に証明し、騒動の冷却期間を置くのがいいと思う。国内在住の外国人選手も、日本人の応援団がいるので避けたほうがいいだろう。

 彼は9月に24歳になる。数年すればヤンチャはおさまる。それまでは老子の「大国を治めるのは小魚を煮るようなもの」という言葉のように、あまり干渉・刺激せず、過剰反応にも過保護にもならないことが一番ではないだろうか。



2006-08-30 12:20 この記事だけ表示
 
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