“手作り格闘技”というトレンド[井田英登]

 フジテレビのPRIDEの放映差し止め騒動が明るみに出た今週だが、未だ格闘技ブーム自体は減速傾向ではないらしく、関連のイベントは減る気配もない。無論、影響らしき物がでるとしたら、数ヶ月先の話だろうし、その頃PRIDE本体に万が一の事があったら、流出を余儀なくされた選手の受け皿が必要となるわけで、逆にイベントは増えるかもしれない。

 メジャー団体のイベントの谷間にあたるこの週末は、案の定、中〜小規模興行のひしめくラッシュ状態とあいなった。

  全日本キック(後楽園ホール)
  D.O.G(ディファ有明)
  Wカプセル(新宿FACE)
  G-SHOOTO(北沢タウンホール)
  J-NETWORK(大森ゴールドジム)

 と並んだ興行のなか、あえて今回僕が選んだのはWカプセルだった。
 正直、カードの訴求力では上記二団体には比べるべくも無い。
 ただ、PRIDEの騒動の余波が少しでも出るとしたら、一番興行基盤の弱いイベントのはず。どんな層の客が、今この状況でFACEに足を運ぶのか、確認してみたかったのである。

 主催のICHINOオフィスは、かつてアンチハイブリッドボディで旧パンクラスファンに悲鳴を上げさせた「メガトン」(現「SAMURAI SWORD」)の母体となるプロモーション。パンクラスを半ば強引に離脱して以降、以前と比べて試合が明らかに減った所属選手の生活をバックアップして、毎月給料も出しているというから、タニマチに近いチームと言えるだろう。この興行自体も、所属選手に試合機会を与えるためのものだというから、限り無く「プライベート興行」に近い。

 ただこの日の会場は、十分それでも満員であった。興行名に謳われた「W」の意味する“キックと総合の合同興行”の妙というやつで、「SAMURAI SWORD」サイドと谷山ジムを中心とするキック勢が、それぞれにチケットを捌くので、一般ファンの動員を心配しなくても興行的には成り立つらしい。いわゆるジム関係者、選手個人の濃いめのファン、後援者といった層を、それぞれの出場選手が取りまとめれば、この規模の興行は採算があうということになる。この日、映像スクリーンのアイキャッチに何度も登場した「Wカプセル」のロゴの下にあった、“手作り格闘技”という妙にカワイイキャッチフレーズが、この興行の性質をよく言い表していたように思う。

 選手はこうしたミニ舞台で牙を磨き、メジャー団体の声がかかるのを待つわけで、「SAMURAI SWORD」所属の三選手が揃ってKO勝ちを納めたこの日の結果は、プロモーションとしての役割を十分の果たした事になる。(特にメインを務めた三浦は、二度の金的にもめげず腰の座った試合ぶりを見せ、心身ともに充実した状況であるのが見て取れた。リングサイドに陣取った前田日明氏に対するアピール効果は、さぞかし絶大だったに違いない。)ICHINOオフィスの関係者も、昨夜はさぞかし美味しい酒が飲めたのではないだろうか。


 いずれにせよ、満席で500人。地の利的にも、設備的にも、こうしたミニ興行需要をピンポイントで突いた「新宿FACE」という会場の狙いは、見事にツボを突いていることになる。かつて格闘技会場として北沢タウンホールが“開拓”されたころも似たような事を思ったが、その後ディファ有明、新木場1stリング、Blue Fieldなど、東京郊外にもどんどん使い勝手のいい会場が出来て来て、どこもそこそこの使用状況にあると聞く。交通条件が悪くても、“プライベートイベント”の顧客は、それを厭わないから、地代の安い郊外でも経営は成り立つのである。(その意味では、新宿の真ん中にあるFACEは非常に異端ではあるのだが。)

 一般客をニーズとして捉えず、業界インサイダーとその周辺層のみで興行を回すシステムは決して健全だとは思わないが、それでも選手の上がるリングが一つでも増える事は決して悪い事ではない。大阪でも先週、「大阪夏の陣」というプロ柔術のミニイベントがあったばかり。あの興行なども、まさに客席に柔術道場と関係ない客は皆無といった性質のイベントだったわけで。これからもジム単位、あるいは業界外の人によるプロデュース興行など、予算200万〜といった程度の“手作り格闘技”系のイベントは増え続けると思う。

 その意味で、今日は現在の格闘技ビジネスの“一つの先端”を見たような気がした。

2006-06-12 05:55 この記事だけ表示
 
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