文理両道のスーパーマン[井原芳徳]

 先週の話になりますが、渋谷の「UPLINK X」という小さな映画館で、「トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男」というドキュメンタリーを観ました(劇場と映画の紹介ページはこちら。写真はHPから拝借)

 ダウドは50〜70年代に多重録音等の当時としては先駆的な技術を数々編み出したスタジオエンジニア。エリック・クラプトン、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、ジョン・コルトレーン等、その手がけた音楽家の名前を並べただけでも凄さが伝わるかもしれません。山下達郎も映画のチラシの推薦文で「私は、知らぬ間に聴覚的審美眼の基準値をトム・ダウドから学んでいたわけで、それが後のミュージシャン人生にどれほど役立ったか知れません」と最大限の賛辞を贈っています。

 その文章に出てきた表現の中で印象的だったのは「文理両道のスーパーマン、トム・ダウド」という部分。ダウドは大学生だった第二次世界大戦中、核物理学者として広島・長崎の原爆の開発に関わったのですが、その研究が大学で学ぶことの5年先を行ってしまったため、戦後は復学せず、好きだった音楽の道に進んだのです。そこで活きたのが理系の頭脳。当時の先端技術を次々レコーディングに取り入れ、他のレコード会社よりも格段に良い音の名作を連発していきます。

 だけど彼が本当に素晴らしいのは、新しい技術にミュージシャンを無理矢理合わせようとはせず、技術をミュージシャンが作りたい音を作るための『手段』として活かしたこと。かといって完全な引き立て役や裏方にクールに徹したわけじゃなく、時には音楽家に適切なアドバイスを送ったり、クラプトンとデュアン・オールマンの運命的な出会いをセッティングしたりと、これまで接点の無かったものの『核融合』も数々実現させました。

 父はコンサートマスター、母はオペラ歌手で、その豊かな感性が自然と技術の中にしみこんでいたのでしょう。『文理両道のスーパーマン』とはうまく言ったものです。理系崩れの僕も“スーパー”マンまではなれなくても、文理両道ぐらいは心がけて、この『武』の世界に活かせればと感じさせられました。

 ところでこの作品、通常の一般1500円、学生1200円、シニア1000円の料金以外に、音楽系専門学校生が学生証を持参すれば1000円、宅録割引1200円、ブログのトラックバック割引1200円といった面白い割引制度を設けています。宅録割引は自宅の録音機材のマニュアルか、機材のケータイで撮った写真を受付で見せればOKとのこと。こういう割引制度の発想が出て来るのも、トム・ダウドの映画ならではでしょうけど、格闘技の興行でもトラバの割引はできますし、グローブや道衣の帯を持って行けば割引とかってのも面白いかもしれません。

2006-04-28 12:55 この記事だけ表示
 
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