UFCだから仕方がないか[シュウ・ヒラタ]
今回は本誌の英語版「BoutReview USA」の編集長・シュウ・ヒラタさんがe+ブログ初登場です。シュウさんはニューヨーク在住。向こうじゃなきゃ入って来ないような面白いネタに今後もご期待ください。(井原)


 今年もアメリカ総合格闘技界は、相変わらずUFCに振り回される日々が続きそうです。
 ここで実際の選手名や大会名を記すことはできないですが、わたしの知っている限りでも、試合の一週間とか二週間前に、ズッファからのオファーがあったからと選手が言い出した為に、メインイベントが吹っ飛んでしまった大会が去年一年間で5つありました。
 そうです、いまアメリカで総合格闘技の大会をやっているプロモーター、マッチメーカーたちのほとんどは「でも契約があるじゃないか」とこういった時に踏ん張るのではなく「まぁ、UFCなら仕方がないか」とすぐに諦めモードになってしまうどころか「世界中のオーディエンスの前で試合をするチャンスだから頑張れ」とかいいだしグッド・パーソンになってしまうのです。

 「お前の大会はどうなるんだ?それよりもこの試合がみたいと思ってチケット買ってくれたお客さんのこと考えたことあんの?」とも思うのですが、自分の大会に出ていた選手がUFCに出れば宣伝になる、スポンサーたちに自慢できるなど、他にも色々と思惑もあるようで最後はいつも「UFCなら仕方がない」となってしまうのです。
 本気でUFCと対抗しようと思っているプロモーターたちがこの国にどれだけいるのか。いや、それを公で露にしなくても、いつか並んでやる、追いこしてやる、という内に秘めた野望を持っているのか。アメリカの選手たち、そしてそのマネージャーたちにとっては、2006年という年はそれをどう見分けるのかが大切な年になるのではないでしょうか。

 しかし問題はプロモーターやマッチメーカーたちだけでもないんです。

 アメリカの格闘技の会場といえば、やはりカジノ・ホテルです。しかし最近はこのカジノ・ホテルも、総合格闘技となるとUFCに振り回されているのが現状であります。
 今年も新年早々、米東海岸のギャンブルのメッカ、アトランテック・シティー(以下AC)でもUFCに振り回されて、3つの総合格闘技の大会の日程と開催場所がすべて狂ってしまったというハプニングが勃発しました。

 UFC 58はどこで開催されるのか!?
 ズッファが3月4日、ACのボードウォーク・ホールをおさえている。そんな噂が流れたのが去年の12月でした。
 数年前から総合格闘技に着目し、試行錯誤を繰り返しながらもプロモーターたちと付き合ってきたACの三つのカジノ・ホテル、トランプ・タジ・マハ−ル、トロピカーナ・カジノ、そしてシーザーズ・パレスの上層部は、この噂を耳にした途端、それこそもう条件反射的に、じゃぁ、その一週間前の2月の最終週、それから一週間後の3月10、11、12の金、土、日、この二つの週末は総合格闘技大会の開催はNGね、と決定してしまったのです。

 「え、ちょっと待ってよ、28日はうちで決定したって言ったじゃない?もう口頭契約しちゃってる選手もいるんだよ」、とトランプ・タジ・マハ−ルに慌てて電話をしたのは、同ホテルのアリーナで2月28日に第6回大会を予定していたMFC(Mixed Fighting Championship)。そして「今年は3大会契約で初っ端は3月の第一週と言ったでしょ?」とトロピカーナ・カジノに確認する羽目になったのが3年振りのAC復帰を狙っていたROC(Ring of Combat)。「え、じゃぁうちの2月のボード・ウォークはなし?だったら他の会場探さないといけないんだから教えてよ」ということになっちゃったのがアメリカで唯一オクタゴン・リングを使っているRF(Reality Fighting)。
 けどカジノとプロモーターの間でも「UFCだから仕方がないか」という暗黙の了解があるかのように、ここでも「何とかならないか」と踏ん張るプロモーターは皆無でした。でも結局、蓋を開けてみたらUFC 58はベガスで開催。慌てて会場のスケジュールをスクランブルしたカジノ・ホテル、そして他の会場を探したプロモーター、もうみなさん、お疲れ様でしたとしか言えません。

 アメリカでは、昔から格闘技といえばリングです。ボクシングもキックボクシングも、二人の男が己の頭脳と肉体だけを駆使し雌雄を決する場は、常にロープで囲まれたリングでした。
 しかしUFCでの闘いの場は、みなさんも御存知の通り、オクタゴン、つまり八角形の金網で囲まれたマットです。これがUFCの専売特許、トレードマークでもあるのですが、裏を返せば、ここが狙い目であると考えるプロモーターがいてもおかしくないと思います。
 ロープで囲まれたリングで、UFCとは微妙に違ったルールで試合をする大きな大会がもうひとつあれば、野球のアメリカン・リーグとナショナル・リーグのように、総合格闘技は、ファンのイマジネーションを掻き立てるもっともっと面白いプロ・スポーツになると私は思うのですが…。

 UFCはオクタゴンで肘打ち有りだけどグラウンドでの膝蹴りは禁止、それならこっちはリングで肘打ちは無しだけどグラウンドでの膝蹴りはOK。アメリカン・リーグは指名打者制度があるけどナショナル・リーグはなし。じゃぁ、ナショナル・リーグのピッチャーはアメリカン・リーグでどれだけの防御率が稼げるのかとか、アメリカン・リーグのピッチャーが打席にたつ所をみてみたい、とファンが考え論じるのと同じように、あの選手はオクタゴンのルールでは強いけど、リングのルールだとどうなるんだろう? ランディ・クートゥアがグラウンドでの膝蹴り有りで試合したらめちゃくちゃ強いぜ、といった具合に、ファンはもっと興味をそそられるだけでなく、ルールが少し違うだけで試合結果も変わってくる総合格闘技の奥深さも充分に伝わる、と考えるのは私だけでしょうか。

 もちろん、アメリカでペイ・パー・ビュー放送されているPRIDEがあるので(昨年からFSNというケーブルチャンネルで、一時間のアーカイブ形式の番組も月に一度ですがオンエアされております)、この国でもルールの違いや総合格闘技の奥深さをすでに熟知しているファンはたくさんいます。
 ただアメリカというのは「アメリカ産じゃなくちゃいけない」というまだまだ田舎もん意識を強く持った国民が多々いる国なのです。字幕付きの映画を観る人が、いや、観た事のある人が国民の1%にも満たないこの国では、スポーツとエンターテイメントは、やっぱりアメリカ産好みなのです。(少し古い例になりますが、邦画「Shall We Dance?」がアメリカで公開されたときも、国民のほとんどが知らない東洋人の役者の顔をポスターに載せたら興行成績に響くからと、どの広告にも黒いタキシードの足と赤いドレスの足がクロスするイメージしか使わなかったぐらい、この国はアメリカ産好みなのです)

 よし、それならUFCと肩を並べてやる、と意気込むプロモーターがアメリカにいる事はいるんですが、なかなかそのやる気に行動がついていかないというか、決めたことをやり遂げるしつこさがないというか、非常に難しい状況であります。

2006-02-06 01:42 この記事だけ表示
 
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